設立趣旨

今日、一つの病気を治療するためには、まず血液、画像、病理組織検査などによる総合的な診断に始まり、手術等を含めた外科的な切除、内科的薬物療法、放射線治療などの医学的アプローチから、緩和医療や介護、社会的サポートを含めた全人的なケアに至るまで様々な専門領域が複合的かつ効率的に機能しなければなりません。このような多くの異なる専門領域が結集することは病気に苦しむ患者様へ本当の意味での「集学的治療」を提供するために必須と考えられます。しかし、多くの複雑な病態に対応するための高度な専門知識の必要性から、各専門分野の細分化が進んだことで、現在各領域を横断しながら最適な連携体制をマネージメント可能な人材、システムの不足が大きな問題となっています。

このような高度な専門領域を統合して提供するために、国際的交流の中で先行する欧米のシステムに学び、常に最先端の情報を収集しフィートバックすることで、専門分野の質を高め、新たな集学的治療の可能性を広げる必要があります。また海外における各領域の人材交流は、グローバルな視野をもった専門家の育成のみならず、医療資源の有効配分を実現化する高いマネージメント能力を有する人材の育成に貢献し、結果として国民皆保険制度を享受する本邦でしかできない、より一層高度な日本発の領域横断的医療システムの開発と発信を可能とするものと考えます。

一方、世界保健機構(WHO)によると、日本の保健医療システムにおける健康達成度は、世界で最も高いことが報告されています。また、OECDによると、日本は、子宮頸がん、乳がん、大腸がんの5年生存率においてトップ10に位置しており、全世界的なレベルでは現時点においても、高度で多様な医療技術、医療サービスを有しています。日本が特徴を有する医療としては、低侵襲性医療、遠隔医療、小型機器を用いた医療等の診療・治療を支える医療技術や健康診断、検診リハビリといった予防や予後に効果をもたらす技術やサービスが挙げられます。また、医療の基本的なサービスとしては、チーム医療に基づく総合的な医療や医師・医療専門職の育成等が挙げられます。これらのことから、日本は新興国・東南アジアに対して、医療水準の向上や日本式医療の国際展開の分野において、貢献できることが多々あります。さらに東南アジアには、日本と同様に肝炎ウィルスの感染者が多いこと、また、近年、新興国においても経済成長に伴って、高齢化が進んでおり、高齢化の進展とともに、がんや生活習慣病といった日本をはじめとする先進国に見られる疾病の大幅な増加が予想されており、新興国が抱える課題も先進国と共通のものになりつつあります。

本法人は、以上のような認識に基づき、国内外における患者様本意の集学的治療の実現化と普及・発展に必要な人材とシステムを育成することを目的とし、複数にまたがる領域の中立的立場で、新たな治療法の開発や研究者主導臨床研究および集学的医療研究を行う研究機関や研究者に対する支援・関連する情報提供を行い、また国内外の医療従事者教育を含めた様々な領域横断的な事業展開を目指します。このことによって、医療の地域格差を減らすと共に、医療資源の適切な配置による均一化と医療レベルの向上につながることが期待されます。また高度医療の専門家と同時にそれを有機的に統合させる領域横断的なコーディネーターの育成および生涯教育を行うことで、あらゆる疾患の治療成績の向上と、広く一般市民の健康と福祉の増進に寄与することを目的としています。


特定非営利活動法人国際健康福祉センター
NPO IHWC 理事長
板野 理